『第762話』 【食の安全性】立場越え課題の共有を

厚生労働省などが共催し、添加物や残留農薬の安全性に関して意見交換する「食品に関するリスクコミュニケーション」がこのほど、秋田市で開かれた。この取り組みは平成15年から全国の200カ所余りで開催され、延べ約4万人が参加している。

一口に食の安全性といっても遺伝子組み換え作物、製造工程や流通過程の管理、販売店の衛生管理、家庭での取り扱い、薬と食品との飲み併せなど多岐にわたるが、今回は添加物と農薬に絞られた。基調講演、生産者や販売業者らによるパネルディスカッションが行われた。

パネルディスカッションでは同省大臣官房参事官が日本の食品添加物や残留農薬の規制は世界的にも厳しいものの、今後の研究によって新たな知見が得られる可能性があり、その時には迅速に情報提供を行うとともに法を改正する態勢が取られていると述べた。

各方面で研究が進んだ現在も分からないことはある。例えばコエンザイムQ10は健康に影響を及ぼさない最大摂取量がどの程度か結論が出ていない。一方で正しい知識が十分に普及していないケースもある。同省は、一部の種類のマグロなどには生体濃縮によって他の魚介類よりも有機水銀が蓄積されており、妊婦は大量摂取を控えるよう呼び掛けている。ところが、これを受け「マグロは危ない」と反応してしまう人もいる。

また、パネルディスカッションでは生産者、流通業者、消費者が率直に疑問をぶつけ合い、意見を交換した。食をめぐる問題については立場によって見方に違いがあり、互いに信頼関係を築くためにはこのような場が必要だと思う。生産履歴を残すトレーサビリティーも、生産者と消費者の信頼開係の下に機能している。

17年に食育基本法が成立した。この法律には「国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成」「食に関する感謝の念と理解」「子どもの食育における保護者、教育関係者等の役割」などが盛り込まれている。食は命と直結している。食べの関心が高まる中、これからも生産者、流通業者、消費者らが食品の安全性について話し合う機会を設け、現状や課題についての認識を共有し、対策に取り組んでいくことを望みたい。