『第200話』 大便消毒剤の適切な使用を
高齢化社会を迎えて、家庭内で介護する上での問題点が論議されている。介護を受ける人の精神的苦痛の中でも排せつ物の始末をしてもらうことほどつらいことはない。恥ずかしい、見られたくないという気持ちは人間の尊厳をも傷つけてしまう。また介護する者にとっても汚い、気持ち悪いといった苦痛が伴う。しかし、排便排尿があることは生きているあかしでもある。
大便は腸内細菌の消化作用の結果、アミノ酸のトリプトファンから生成したインドール、スカトールや硫黄を含むタンパク質から生成した硫化水素のために悪臭を放つ。便秘気味であれば、よりこの作用を受けて、においはきつくなる。
最近、錠剤状の健康食品としてこの排便のにおいを消すものが出てきた。毎食後一粒服用すると3、4日目から便がにおわなくなる。そこまで必要になったのかと目を見張ってしまうが、中身はビタミンを中心とした自然食品だ。これが、悪臭の原因を体内で分解する。
口臭予防効果もあり、若い人向けにエチケット商品として宣伝されているため、さらに潔癖症候群をあおるのではないかといった心配もある。
また、排便消臭剤の出現は日本の福祉の貧困さが生んだ漫画的現象と手厳しい批判を述べる人もいる。
もう少し広い目で見ると、日本の在宅介護は女性の犠牲の上に成り立っている面もある。しかし、被害者的な意識だけではなく、お世話になった人を介護させていただくといった感謝の気持ちを込めた“加害者意識”でも在宅介護を見直しておく必要もある。
高齢者にとって排便のにおいは、体調の変化をとらえる上でも重要で、診断の一つの指標ともなりうる。安易に使用するのではなく、適切な使用方法について介護者と主治医がよく話し合う必要がある