『第204話』 生活に溶け込むアロマテラピー

あす8月7日は鼻の日。さまざまな香りは気分の変化をもたらしたり、過去の記憶をよみがえらせたりする。香りのもとになる揮発性の化学物質は鼻腔(びくう)の嗅(きゅう)細胞で電気信号に変えられ、大脳辺縁系に直接伝えられる。大脳辺縁系は大脳の内側にあり、本能や気分の表現、記憶などにかかわっている。

脳を右脳と左脳の機能に分けると、香りの電気信号は右脳を選択的に刺激する。右脳は感情脳ともいわれ、陶酔感やひらめきといった精神機能にかかわっている。逆に左脳は理性脳といわれ、常識的判断を下している。この左脳は単純な繰り返しに弱く、たとえば念仏やお経を唱えているとその活動は低下する。従って念仏を唱えながら、香木を焚(た)き染めて右脳を強く刺激すると、やがて陶酔状態を引き起こし、宗教的体験を得やすくなる。世界各国、古代から宗教的儀式に香りと呪文(じゅもん)がつきものなのは、こうしたことが経験上知られていたからかもしれない。

さて最近よく耳にするアロマテラピーとは約50年ほど前にフランスの調香師がつくった言葉だが、基本的には草木や花から抽出した精油によるマッサージと芳香の吸入という二つに大別される。マッサージをすることは単に筋肉をほぐすだけでなく、ボディータッチの意味からも緊張した精神、高ぶった気持ちなどを和らげる効果がある。精油は皮膚透過性が非常に良く、抗菌作用や免疫系を刺激する作用などももっているのでうがいなどにもよく使われる。芳香の吸入ではおふろに精油を入れたり、綿球に浸して鼻から吸収するなどさまざまな方法でリラックスを図る。

アロマテラピーは特別なものではなく、日本古来のしょうぶ湯や柚子(ゆず)湯などを楽しむのもその一つといえる。習字の際、墨をすっていると何か気持ちが落ち着き、集中力が高まってくる。これは墨の中のボルネオールという成分が鎮静作用をもつからだ。言葉は新しいが森林浴など、すでに日本人が実践しているアロマテラピーがたくさんある