『第212話』 トラコーマ菌が性病の原因にも
昭和30年代、10万人を超える患者がいたトラコーマ。子供のころ、ほかの人にうつるからプールに入ることのできない目の病気と教えられた記憶がある。
58年以降わが国ではほとんどトラコーマは見られなくなった。これは、テトラサイクリン系、マクロライド系抗生物質眼軟膏(なんこう)やサルファ剤の内服薬がよく効いたことによるためだ。
トラコーマの原因菌はクラミジア・トラコマティスで、急性結膜炎を起こす。放置しておくと慢性結膜炎に移行し、角膜が混濁するパンヌスを起こして失明に至る。
現在クラミジア・トラコマティスが全くいなくなってしまったわけではなく、形を変え、非淋菌(りんきん)性尿道炎や第四性病といわれる鼠径(そけい)リンパ肉芽腫(しゅ)症といったクラミジア感染症の原因になっている。
アメリカで目のクラミジアが性病としてまん延し始めたのは、数十年も前のこと。今では非淋菌性尿道炎の原因の約50%がクラミジア・トラコマティスだ。
女性は自覚症状がほとんどなく、子宮頸管(けいかん)炎から卵管炎へと上行感染を起こし、帯下の増加や微熱と下腹部痛で感染に気付くことが少なくない。この場合、治癒しても卵管が癒着して通過障害を起こし。約20%の人が不妊症になるといわれている。深刻なのは妊婦の場台の母子感染で、新生児に封入体結膜炎や肺炎を引き起こすことだ。肺炎は無熱性で1カ月以上経過してから発症するので注意が必要だ。
男性でも、淋菌性尿道炎のように排尿痛や膿(う)みが少ないため気が付きにくく、前立腺(せん)炎や副睾丸(こうがん)炎を起こして男性不妊症になることがまれにある。
現在、治療にはニューキノロノン系抗菌剤やマクロライド系抗生物質が使われるが、妊婦の場合は胎児毒性や母乳移行を考慮した薬剤選択が必要になる