『第214話』 人体の水分を抜きプラスチック保存
今、上野の国立科学博物館で開催されている日本解剖学会百周年記念特別展「人体の世界」が話題になっている。
そこには、胃かいようで大正5年12月9日に亡くなった夏目漱石の脳、人体の病変した臓器、骨格だけの人体、皮膚、脂肪組織をはぎ取り、筋肉だけになった人体標本が展示されている。圧巻なのは人体の頭から足先まで5ミリ程度に薄く輪切りになった人体だ。まさにこれは現代のミイラともいうべきものだ。
しかし、ミイラが来世でのよみがえりを願って作製されたのと違い、それは医学発展、教育、研究のために献体という無条件無報酬で自らの遺体を提供して作製された。ある意味では永遠の命をも探求しているように思える。
昭和58年には「医学および歯学教育のための献体に関する法律」が施行され、献体登録者総数は13万人を超えている。
かつて人体解剖において、人体そのものを記録しようとするとき、絵として書き留める、写真に写すといった記録方法しかなかった。近代においては臓器をホルマリンで保存する方法が取られていたが、現代の解体新書となったプラスティネーションはこの概念を大きく変えた。
人体は水分とそれ以外のものから構成されている。水分が抜けてしまえば干からび、本当のミイラになってしまう。これでは、人体を生きていたままの状態で保存したことにはならない。水分をプラスチック樹脂と置き換えて固定できればという発想から考えだされたのがプラスティネーションだ。
この技術は、1977年、ドイツのハイデルベルク大学のグンター・フォン・ハーゲン博士が全くの自力で開発した。
これによって、実際の人体各臓器を手に取って観察することができ、腐ることのない人体標本は解剖学の教室を抜け出した。
特別展は、11月26日まで開催されている