『第227話』 神事に用いる植物、古くから民間薬に
お正月の門松やしめ飾りには松や譲葉(ユズリハ)などが使われる。松は神が宿る木と考えられていたし、譲葉の方は、新しく伸びた若い葉に場を譲って、古い葉が落ちるその特徴から、新しい年の神様が譲葉に乗ってやって来ると考えられていた。
松に傷がつくと松やにが出てくる。松やには「松香」という名で中国の最古の薬物書「神農本草経」に紹介されるほど古くから知られた生薬だ。
現在でも「松香」の中の有効成分を胃炎や胃潰瘍(かいよう)の薬として使われる。特に、胃潰瘍再発の主な原因とされている細菌ヘリコバクター・ピロリに対する殺菌作用が注目されている。
一方、譲葉は民間薬として腫(は)れものや寄生虫症、ぜんそくに用いられたが有用な成分のほか、毒性の強い成分も数種含まれているので専門家以外の使用はお勧めできない。
神事の際、神職が奉じる笏(しゃく)は一位(いちい)という木からつくられる。高さ25メートルになるこの木は神社の境内に多く見受けられ、その真っすぐな姿に「櫟」という漢字も当てられる。地方によってはオンコやアララギとも呼ばれる。
この実はとても甘く、子供時代に口にされた人もいるかもしれない。ただしこの人たちは種の部分をちゃんと吐き出していたに違いない。種や葉には猛毒のアルカロイドのタキシンという物質が含まれていて、食べた量よってはけいれんを起こしたり、呼吸まひを起こす。絶対に食べてはいけない。
またお祝い事につきものの赤飯には南天(なんてん)の葉が飾られる。これは葉に含まれるシアン化水素の腐敗防止作用を利用している。シアン化水素は猛毒だがごく微量なので心配はない。一方、実の方は民間薬としてせき止めに使用されてきたのは周知のとおりである