『第232話』 不安や恐怖感でより痛みが増す

痛みの強さを調べる実験をした科学者たちがいる。一定の強さの「痛みの刺激」をドールという単位で表し、被験者にさまざまな大きさの痛みを与えてみた。

皮膚のかすり傷による痛みを0.5ドールとすると、大抵の神経痛や腹痛は1~2ドール、普通の頭痛が2~3、心筋梗塞(こうそく)による痛みは4~6、腎臓(じんぞう)結石が尿管を通過するときは10ドールに達するという結果が出ている。実際、結石による痛みは強烈で、モルヒネなどの麻薬を使用することもしばし

痛みの信号が大脳の知覚領に達すると痛いという感覚が出来上がる。痛みの強さは信号の大きさに対応している。

この時、痛みの信号は枝分かれして意識を左右している脳の部分(上行性網様ふ活系と呼ばれる)にも送られる。すると上行性網様ふ活系は脳に向かって、目を覚ませ、意識をはっきりせよといった信号を発する。痛いときどうしても眠れないのはこうしたことが起こっているからだ。

また、ほかの枝分かれした信号は、大脳辺縁系や脳幹網様体といった感度調節器を通って感情状態をつくる領域にも送られていく。ここでは痛みに対する感度の調節が図られる。

痛みがあっても気分が落ち着いていたり、だれかが手を握ってくれたりしていると痛い、痛いとわめいたりしない。また気が動転していたり、頭に血が上ってカッカしているときも痛みを感じなかったりする。こんなとき痛みの感度は落ちている。逆に不安や恐怖感があるとき、痛みは強く感じられる。

このように同じ強さの痛みでも、その時々に作り上げられた感情の状態によって、痛みの感度は変わってくる。

明治生まれの人は我慢強いとか男なら我慢しろなどといわれるが、受けている痛みの強さは皆同じだ。我慢強いか弱いかは痛いと感じているときの感情の高まりをどう表現するかにかかわってくる