『第241話』 感染型プリオン、狂牛病の原因に

狂牛病の発生は、中世に猛威を振るった黒死病(ペスト)の再来かのようにヨーロッパ全土を恐怖に陥れ、その情報は世界を駆け巡った。

日本では薬害エイズ問題が連日報道され、加熱血液製剤の輸入が遅れた原因が論じられているが、フランスは、自国の食料不足やイギリスの経済的打撃よりも、国民の安全を最優先し、情報を入手した翌日に牛肉輸入禁止の措置を取った。個人的な意見になるが、その対応の早さには、驚かされた。

狂牛病の原因となったプリオンは遺伝子を持たない単なるタンパク質。生命体であれば、必ず遺伝子を持ち増殖する。増殖するためには遺伝子が必要だが、プリオンにはない。

プリオンの増殖メカニズムには、一つの仮説が立てられている。プリオンは通常、二量体といって分子が二つつながった形をしている。このプリオンには正常型と感染型があって、感染型が侵入すると次々と正常型に取り付いて感染型に変化させる。脳内にある正常型プリオンが感染型に変化して蓄積し、これが痴ほうや全身まひを引き起こすというものだ。従って正確には自己増殖しているわけではない。

プリオンが病気を引き起こす、と分かったのは1982年。スクレイピー病にかかった羊の脳からプリオンが分離された。同様にクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)やクールー病も、プリオンによって起こることが判明、これら一連をプリオン病ともいう。

英国医学誌ランセット4月6日号によれば、牛から感染したと思われる今回のCJDは、発症から死に至る期間が1年と従来の4カ月よりも長く、脳内プリオン量が高密度であることなどから、新種である可能性を指摘している。

イギリスはEU(ヨーロッパ連合)に早期輸入解禁を訴えたが、EUは安全性の実証を求めている。安全性確保のためには「疑わしきは罰する」態度が必要だ