『第290話』 服用しない薬も、すべて国民負担
医薬品にも価格がある。しかし、その単価となると、自分で服用している薬がどのくらいであるかを知っている人はほとんどいない。
保険医療機関から出る医薬品にはすべて薬価という公定価格が設定されている。この値段は一般の人でも薬価基準を収載している本があるので、調べることができる。
日本では医療保険制度によって医療機関で処方した薬は薬価に従って健康保険から医療機関に支払われるシステムになっている。
通常、医療機関の窓口で支払う自己負担分は薬代を含む総医療費の1割または3割ということになっている。しかし、これはあくまでも窓口での話で、それ以前に健康保険料として所得に応じて相当額を支払っている。いわば健康保険料は目的税的な意味合いを持っている。
国民医療費の約27%は薬剤費で占められていて、外来の患者分だけで計算すると1人当たり年額で約42,000円になる。米国が約12%、英国が約17%となっていて、日本人は薬が好きだとされている根拠もここにある。この比率を逆から見れば、医師らの技術料が安く抑えられているというとらえ方もできる。過去には、この技術料を補うために薬の納入価と薬価との差、薬価差益を得るために薬を出しすぎるという批判もあったが、現在では平均17%程度で、今後は10%まで縮小する予定だ。
医療保険の赤字は拡大している。自己負担分のコスト意識はあるが健康保険料まで視野に入れて論じる人は少ない。服用しなかった医薬品もすべての国民が負担する健康保険料から支払われている。最低の医療費で量大の治療効果を挙げるための方策がいろいろと検討されてきたが、いまだ明快な結論は得られていない。公共の健康保険料を適正に使う方法について、国民一人ひとりが薬の使い方も含め、論議を深める必要がある。