『第297話』 長い歴史が語る、蛇羅尼助(だらにすけ)の薬効

奈良、薬師寺境内までの道に漢方薬の原料になる薬草が植えられ、いかにも薬師寺らしい雰囲気を醸し出している。

境内では、「陀羅尼助(だらにすけ)」という胃薬が売られている。

広辞苑によれば、陀羅尼とは梵語(ぼんご=サンスクリット語)の発音に漢字を当てたもので、「よく善法を持して散失せず、悪法をさえぎる力」と訳されている。梵語で書かれた長い経文を声に出して読むと、さまざまな障害が取り除かれ、種々の功徳を受けるといわれていたので、一般に長い経文を陀羅尼というようになった。

しかし僧りょが陀羅尼を読むとき、しばしば眠くなるのでこれを防ぐため、この苦い薬を口に含んだといわれている。江戸天保時代の川柳に「だら肋は腹よりはまず顔に効き」という句があるぐらいだ。

陀羅尼助は山伏によって各地に伝えられ、生薬成分が異なるものがいくつかあるが黄柏(オウバク)、センブリ、莪述(ガジュツ)を主成分としている。

オウバクはキハダというミカン科の落葉喬木(きょうぼく)の樹皮をはいで乾燥させたもので、6000年前の縄文時代の遺跡からも発掘され、経験的にその薬効を知っていたと思われる。

ガジュツはインド原産のショウガ科の植物だが、普段口にするショウガとは違って、かなり苦い。またセンブリも苦いことでおなじみだ。

オウバクの有効成分はベルベリンという物質で、胃腸機能を促進するほか、抗菌作用もあり、単独でも下痢止めに使用されている。センブリやガジュツにも健胃作用がある。

ガジュツに真昆布の粉末を加えた製剤は「恵命我神散(けいめいがしんさん)」という名が付けられている。「効能神の如し」という意味だそうだ。どちらも薬局で入手できる。