『第327話』 高齢者に対する薬の影響に注意
生理的機能が低下した高齢者が薬を服用している場合は、起居動作、手洗い、食事、入浴、更衣などに影響が出ていないかを注意深く観察する必要がある。日常生活を送るうえで、基本となる動作のことをADL(アクティビィティー・オブ・デイリー・リビング)という。このADLの低下はQOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)を直接的に低下せることになる。
高齢者の場合、長期間薬を服用していることが多く、ADLの低下が薬によるものなのか、老化による身体的機能低下や痴呆(ちほう)症状によるものなのかを判別することは難しい。介護を必要とする場合や痴呆のある高齢者では自発的な意思表示ができないために、介護者の注意深い観察が問題点発見のカギを握る。
薬による影響があるかないかは、まず長期間服用している薬をすべて洗い出す作業から始まる。薬の服用を開始した時期、ADLの低下が生じ始めた時期と状態を表にする。服用している薬が分かれば、ADLの低下を生じさせる可能性がある薬を拾い上げる。
高齢者の場合、震え、筋力の低下、味覚障害、排尿障害、言語障害といったところに薬の影響が現れやすい。
例えば、高血圧治療薬には尿失禁を引き起こす可能性のある薬があり、こうした場合には影響の少ない薬に変更することを検討することが考えられる。
多くの薬を服用している場合には、病状との関係を検討したうえで、医師と薬剤師の協力のもと、薬を整理することも必要になる。
原因となる薬が分かっても、病気の治療のために服用の中止ができないことがあり、現実は相当難しい状況にある。しかし、一部の文献には震えが起こるパーキンソン症状で来院した高齢者の51%が薬剤性であったという報告もあり、薬の治療効果とADL低下の状態とを服用時点から観察しておく必要がある。
診断学的にもパーキンソン病と薬剤性振せんの症状を比較検討する方法があるが、疫学的調査を積み重ねて、高齢者に対する薬の影響度を見極めていく指針づくりが検討されている。