『第331話』 鎮痛に有効、でも中毒怖いアヘン

「津軽」と聞いて、地名以外に何を連想するだろうか。現代ならリンゴや三味線などさまざまなものを思いつくだろうが、その昔、大阪地方では、「津軽」はアヘンを意味していた。

実は、日本でケシの栽培が初めて行われたのが津軽だという説もある。日本におけるケシ栽培の歴史に詳しい弘前大学医学部の松本明知教授は、もともとドイツのライン河畔原産であったケシが中近東や地中海に広り、9~10世紀にはアラビア商人によってインド、スリランカからスマトラに運ばれた。スマトラからの南蛮船が日本の若狭に入港してきたのが1412年。このとき、たまたま同じ港に入っていた津軽の北前船の船乗りに、南蛮船の乗組員が土産としてケシを渡したのではないかと推測している。

津軽藩ではアヘンを使った秘薬「津軽一粒金丹」を製造していたというから、鑑賞用だった花がいつからかアヘン採取用の花に変わってしまったと考えられる。

アヘンから分離されるモルヒネには強力な鎮痛作用があり、がん性疼痛(とうつう)には欠かせない。副作用として眠気や便秘が起こるので、古代より、アヘンを睡眠剤に用いたり、下痢止めに使っていた記録がある。

ケシは中国にも紹介されていたが、鎮痛剤としてはあまり注目されなかった。麻黄や附子(ぶし)といった優れた鎮痛作用を持つ生薬があったためと思われる。

また、紀元前の仏典には釈尊が柳の楊枝をかんで歯痛を治したという記録がある。近代になって柳からアスピリンが発見されたことを考えると合点がいく。痛みを止める植物は古代より経験的に数種見つかっていたと考えられた。

有効な鎮痛作用を有しているとはいえ、アヘンは麻薬である。麻薬は体内に入ると神経を刺激して、不快になったり、快感を覚えたりする。回を重ねるごとにそれはどうしようもないほどの快感に変わり、次第に量を増やさないとその快感は得られなくなる。薬が切れたときに訪れる苦痛は想像を絶するものがある。中毒になると薬のためには何でもするという怖さがある。麻薬は法律の下、厳重に取り扱わなくてはならない。