『第334話』 環境汚染進行で生殖機能に障害

奪われし未来1(ホルモン作用かく乱物質)

環境汚染が人類にもたらす悪影響は催奇性やがん化という問題だけではなかった。人類の気がつかない汚染は静かに進行し、救いようのない段階まで進んでいた。その物質は、生殖機能に障害を与え、ホルモン作用かく乱物質と呼ばれている。

このことを詳細に記述した「奪われし未来」という本が外国でベストセラーになっている。

あらゆる生物が1つの生命体として、その命を営んでいくためには多くの細胞群の働きが秩序良く調和し、統合して活動していく必要がある。そのために脊椎(せきつい)動物は3つの伝達機構を備えた。1つは神経系、2つ目が免疫系。もう1つが内分泌系、いわゆるホルモンによる伝達機構だ。ホルモンはケミカルメッセンジャーとして主に血液中に分泌されて全身に信号を伝えていく。その濃度はppmよりも100万倍薄いpptという単位で十分に効果を現す。

生殖機能の異常が観察されはじめたのは1950年ごろからだ。その後、92年にデンマークの生殖生物学の専門家ニールス・スカッケベックが研究中に、精子数の激減と精子の奇形が年を追うごとに増加していることに気づいた。研究者たちによる調査によれば、成人男性の平均精子数が38年から90年に掛けて半減し、精巣がんの発生件数が増加していた。

性の発達にはホルモンが重要な役割を果たしている。ホルモンはホルモンレセプターに取り込まれてその作用を発揮する。両者の関係は鍵(かぎ)と鍵穴の関係で説明され、選択性が高いとされてきた。しかし、選択性にも差があり、それほど厳密に鍵穴が作られているわけではないことが分かってきた。特にエストロゲン・レセプターは擬似ホルモンを受け入れやすい。

現在、ホルモン作用かく乱物質と考えられている物質は51種あり、自然環境の隅々にまで浸透している。