『第335話』 疑似ホルモンは日用品の中にも
奪われし未来2(特定された化学物質)
生物の内分泌系伝達機構をかく乱する物質をホルモン作用かく乱物質という。
PCBやダイオキシンもホルモン作用かく乱物質だ。これらの毒物は情報が得やすく注目されてきた。しかし、静かに浸透している毒物は意外と身近なところに存在していた。
ホルモン作用かく乱物質の脅威が後戻りできない状況にあることが分かったのは意外なことからだった。
ボストンのタフツ大学のアナ・ソトー博士と同僚のカルロス・ソンネンシェイン内科医は、人の乳がん細胞の増殖を抑える因子についての実験を行っていた。乳がん細胞はエストロゲンという女性ホルモンで増殖するため、エストロゲンを加えたものと加えないものとの違いを実験した。実験の結果は両者ともに異常に乳がん細胞が増殖しているというものだった。
この結果が実験器具の汚染によるものであると推測し、試行錯誤が繰り返された。2年もの追跡の結果、あぶり出されたのは実験に使ったプラスチック製の試験管だった。この試験管からエストロゲンと似た作用を持つホルモン作用かく乱物質が溶出していたのだ。
さらに2年の歳月の後、溶出物質がP-ノニルフェノールであることが特定された。これをポリスチレンやポリ塩化ビニルに酸化防止剤として添加すると、安定して分解しにくいプラスチックになる。
また、これとは別に米国スタンフォード大学医学部でも、同時期に日用品に使われるポリカーボネートからビスフェノール-Aが溶出し、同様の働きをすることを突き止めている。多くのホルモン作用かく乱物質が体内にどの程度入り、環境に影響を与えているのか不気味なほど分からない。
擬似ホルモンはごく微量であっても生体に影響を及ぼす。さらに、環境中に低濃度に存在していた物質が食物連鎖の過程で次第に濃縮され、数億倍に濃縮される生体濃縮が起こっていることも心配だ。
環境問題に関してタブーはない。厳密な調査と対策が必要だ。