『第400話』 ホルモン剤の男性化作用

薬の副作用で声が変わってしまうことがある。女性でも男性のような声になったり、嗄声(させい)といわれるしわがれ声になったりする。

主に男性ホルモンやタンパク同化ホルモンという薬剤で起こることが知られている。しかも残念だが、これらの薬剤を中止しても、声はほとんどもとに戻ることはない。

ホルモンはもともと人間の体の中で造られ、さまざまな機能を果たしているが、病気や加齢でその働きが不十分になったとき、それを補うために体の外から補充する必要がある。

男性ホルモンは睾丸(こうがん)のほか、副腎皮質から分泌され、性成熟を促すとともに骨の成長にも大きく影響を与える。男の子が思春期になると身長がぐんぐん伸び始め、女の子よりも背が高くなるのはこの時期、男性ホルモンの分泌が多くなるためだ。

男性ホルモンは原発性睾丸機能障害や男性更年期症、男性不妊症などに使われる。また、男性ホルモンにはタンパク同化作用という働きがあり、賢臓でエリスロポエチンという物質の産生を促して赤血球を増やしたり、骨格筋を大きく増やす働きがある。

タンパク同化ホルモンは男性ホルモンの形を少し変え、できるだけ男性化作用を少なくして、タンパク同化作用を強めたものだ。主に再生不良性貧血や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、低身長の治療に使用される。スポーツ選手が記録向上のため筋肉増強剤として使用することが問題となり、ドーピングの対象にもなっている薬剤だ。

男性ホルモンは女性ホルモンの一つである卵胞ホルモンと組み合わせて、女性の更年期障害や閉経後の骨粗鬆症、乳腺症などにも使用される。

長期にわたって、女性に男性ホルモンが投与されると、男性化作用が現れてくる。女性の声の男性化や嗄声、多毛、にきび、色素沈着などがみられる。ほかに肝障害やナトリウム、水分の蓄積による浮腫(ふしゅ)なども起こりやすくなるが、薬剤をやめると声以外の副作用は消失する。

体が産生するホルモンは微量で人間の体をコントロールしている。ホルモン剤も的確な量を使用することにより、病状はかなり軽減され、生活の質は向上する。

ホルモン剤の恩恵を受けるためにも、その使用にあたっては正確な診断と検査が必要になる。