『第414話』 暴飲暴食は急性膵炎のもと

急性膵(すい)炎は激痛とともにやってくる。膵臓の回りには神経が多く、炎症によって刺激が加えられて、強い痛みとなる。従って、神経をより刺激すれば強い痛みになるため、痛みだけでは軽症か重症かを判断することはできない。発症の原因は、アルコールの飲み過ぎ、脂肪分の多い食事、いわゆる暴飲暴食だ。アルコールの過飲によるものが全体の6割を占め、特に男性では7割以上がアルコールによるものだ。

膵臓は胃の裏側下部にあるタラコのような100グラム、15センチ程度の細長い臓器だ。先端は十二指腸につながり、膵臓でつくられた消化液を分泌する主膵管と副膵管がそれぞれ十二指腸のファーター乳頭と小乳頭に出ている。問題はこの主膵管が途中で胆嚢(たんのう)から胆汁を送る胆管と合流して一本になり、これが十二指腸につながっていることだ。

膵臓でつくられる消化酵素の一つ、タンパク質分解酵素トリプシンは消化酵素として働く一つ手前のトリプシノーゲンという状態でつくられる。これが十二指腸に分泌されると胆汁やそのほかの活性化因子によって消化酵素トリプシンに変化して、タンパク質をアミノ酸まで分解してくれる。

トリプシノーゲンが膵臓でトリプシンに変わってしまったらどうなるだろうか?。タンパク質でできている膵臓を自分でつくった消化酵素で消化してしまうことになる。実はこれが急性膵炎の状態だ。

アルコールによって膵管に浮腫(ふしゅ)が起こると膵管が狭くなって膵液の流れが悪くなり、膵臓内にたまる。こうした状況下で内臓の圧力などに変化が起こり、胆汁などが逆流すると膵臓内で消化酵素が活性化して膵臓自身を消化してしまうという説など、急性膵炎に至るメカニズムにいくつかの説がある。

急性膵炎の治療では、消化酵素を分泌させないことが重要だ。このため、数日間は水分を含めた絶水、絶食が必要になる。消化酵素の働きを抑えるために抗酵素剤としてメシル酸カモスタット、メシル酸ガベキサート、メシル酸ナファモスタットなどが使われる。また、抗酵素剤の作用を強めるためシチコリンを併用することがある。このほか二次感染予防のためにグラム陰性菌を念頭に置いたペニシリン系の抗生物質、鎮痛目的のペンタゾシンや臭化ブチルスコポラミンなど多くの薬が必要になる。

涼しくなり、食欲が出てきたからといって、暴飲暴食は慎みたいものだ。