『第612話』 【高齢者の熟睡は可能か?】メリハリ利いた生活を

ある料理研究家が「人の心はシチューやカレーのようなものだ」と話していた。一晩寝かせるとマイルドになる。だから悪いことを言ってしまったのではないかと気にかけたり、失敗して気落ちしたり、心配事がある日は早く寝て休む。時間は料理にも人にも最高の調味料になるのだと教え諭していた。

人間の睡眠には2つのリズムがあり、深く眠る深睡眠(ノンレム)と夢見る睡眠(レム)がおよそ90分の周期で交互に訪れる。深睡眠では嫌な記憶が消去され、レム睡眠では不必要な記憶を消去するよう神経ネットワークが働いている。従って、ぐっすり眠ることは心配事が緩和されたり、またやる気を起こさせることにつながる。

睡眠は体を休めるだけでなく、頭を休める目的もある。脳の重さは全体重の2%しかないが、覚醒時には体全体で使うエネルギーの20%も消費する。睡眠もとらずに頭を使い続けるとオーバーヒートし、集中力や記憶力、思考力が低下する。試験前の一夜漬けをしたい場合も5時間ぐらいは寝た方がいい。

また、成長ホルモンや性腺ホルモンも睡眠中に分泌され、体の成長や発達を促す。寝る子は育つという格言はうそではない。

この睡眠パターンも老人になると少しずつ変化し、リズムが平胆になる。若いときほど体力を使わず、成長も停止しているために深く眠る必要がないとも考えられている。

身体的老化によって、夜間トイレに行く回数が増えたり、足腰の痛みから何度も目を覚ましたりと睡眠が中断されてしまうことがしばしば起こる。このようなことからも老人は睡眠に対して熟睡感を得ることが少なくなり、不眠を訴えるようになる。

不眠に対して恐怖感が強い時は、高齢者にとって安全でふらつきの少ない睡眠剤や抗不安薬の処方が必要になる。

体の状態が良ければ、天気の良い日はできるだけ外出し、太陽の光を浴び、適度に疲れるようにする。無理なときは室内でゲームをしたり、音楽を聴いたりしてなるべく起きていること。夜、眠れなければそれも結構と割り切って、眠くなるまで読書など好きなことをしてリラックスする。何時に寝なければとか、何時間寝なければとか、数字で自分を縛らないことだ。

メリハリの利いた生活は、どんな睡眠薬よりも良い効果が出ることがある。お盆休みが過ぎて眠れなくなった人は、まず少しずれた生活リズムを整え直してもらいたい。