『第440話』 笹かまぼこのような脾臓
胃や腸、肝臓、すい臓、胆嚢(たんのう)などさまざまな臓器に関する薬がある中で、脾臓(ひぞう)の薬というのはあまり聞いたことがない。それどころか脾臓という臓器そのものの存在すら知らない人も多い。
大きさや形はちょうど仙台の名産品「笹かまぼこ」と同じくらいで、ぷよぷよとしていてとても柔らかい。
左腹の上あたりに位置し、胃の端とすい臓の端に接している。色は笹かまぼことは違い、どす黒い赤色だ。赤い色をしているのはそこに血液が集まっているからだ。
脾臓は腹部にあっても消化器ではなく、循環器系の仕事をしている。
古くなった赤血球を濾(こ)し取って解体し、そこから鉄分を取り出してそれをヘモグロビンをつくるために再利用させる。すなわち血球の新生と破壊という作業を行っている。
また、血液の止血に必要な血小板を貯蔵していて、血液中のすべての血小板の3分の1は脾臓にあるといわれる。
脾臓は衝撃に弱い臓器で、交通事故ではしばしば破裂して、腹部が大出血になることがある。そんなときは速やかに脾臓摘出が行われる。
また、ハンディ病といって脾臓と脾臓が腫(は)れる病気のときは脾臓を取ってしまう。
こんなふうに脾臓は摘出しても命に別状はなく、今まで脾臓が担っていた仕事は、骨髄(こつずい)やほかのリンパ系臓器が肩代わりするようになる。
脾臓が絶対なくてはならないのは出生前だ。胎児のころの骨髄機能はまだ未発達なため、骨髄の代わりに脾臓が大量の赤血球、顆粒白血球、リンパ球を作り出す。これらの血球は細菌感染を防ぐなど免疫機能にも大きくかかわっており、脾臓は健康な体作りに貢献する。
この時期の役目を終え、大人になってからの脾臓はいわば引退生活を送っているようなものだ。その意味において、なければなくてもよい臓器であり、特別に治療する薬も生まれてこなかった。
脾臓のように、なくても命に別状はないという臓器はほかにもある。胃や膀胱(ぼうこう)、子宮、下垂体なども摘出しても生命は維持できる。
しかし、必要があって体に備わった臓器である。健康な生活を営むという意味においてはすべての臓器を大事にしたいと思う。