『第441話』 食中毒起こすウイルス

 

食中毒というとボツリヌス菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、腸管出血性大腸菌(O157など)といった細菌を思い浮かべる。

最近、SRSVという聞き慣れないウイルス名が報道されるようになってきた。これは、厚生省が平成9年5月に食品衛生法施行規則を改正し、小型球形ウイルス(SRSV=スモール・ラウンド・ストラクチャード・ウイルス)を報告すべき食中毒原因微生物の対象にして、発生状況を把握しているからだ。

SRSVが食中毒の原因ウイルスと考えられるようになったのは1972年に米国オハイオ州で発生した非細菌性集団食中毒の患者からノーウォークウイルスが発見されてからだ。その後、スノーマウンテンウイルスなどの同系のウイルスが発見され、カリシウイルス科に属することが明らかになってきた。従って、SRSVは固有のウイルスの名称ではない。小型球形をした食中毒を起こすウイルスを指している。

現在では、過去の食中毒で原因不明とされていたもののほとんどはSRSVが原因であると考えられる。このほかに頻度は低いがロタウイルス、アデノウイルス、アストロウイルス、コロナウイルスなどが食中毒を起こす。

11月~3月の冬の期間に起こる食中毒の約90%はSRSVが原因と考えられている。その多くはカキなどの貝類を食べたためと推定されている。

このため平成10年12月に食品衛生法施行規則を改正し、容器包装に入れられた生食用かきについて、採取された海域または湖沼を、表示すべき事項に追加した。これによって、採取海域までさかのぼって緊急の調査を行い、食中毒の被害拡大防止に役立てようとしている。

ウイルス性食中毒を予防するには食材を加熱調理するしかない。SRSVによる食中毒が起こっているかは人の糞便(ふんべん)を電子顕微鏡で観察するか、遺伝子を増殖させて判断するPCR法を使用して調べる。

ウイルスは生きた細胞内のみで増殖するが、SRSVはまだこれも成功していないため、不明なことが多くある。全国の衛生研究所の中でも県衛生研究所は最先端の研究成果を発表している。今後の研究成果を期待したい。