『第444話』 睡眠薬の名前は覚えて

服用している薬の名前を覚えてほしいと願うのは薬剤師だけに限らない。

医師が診察時に「他の病院からどんな薬もらっているの?」と聞いても、やれ「赤い玉っこ」だの「白い粉っこ」などと答えられても見当のつけようもない。

薬の名前は服用する側にとっては特に意味もなく、カタカナ文字にアルファベットがついたりしているので、そうそう記憶にも残るまい。

そんな中で、睡眠薬の名前だけは意外に答えてくる。よっぽどその薬を頼りにしている証拠かもしれない。

睡眠薬の多くはベンゾジアゼピン系というグループとそれ以外の非ベンゾジアゼピン系というグループに振り分けられる。

ベンゾジアゼピン系に入る睡眠薬は超短時間型から短時間型、中間型、長時間型というように効き目の長さが違い、薬剤の種類も豊富。不眠の度合いによって薬の選択がしやすい。1種類の薬だけではどうしても不眠が解消されず、2剤を併用する人もいる。ところが2剤にしても効果が芳しくないことがある。

調べてみると、どちらの薬剤も同じ受容体に作用する薬剤であったりする。薬は特定の受容体に結びつくことによってカギ穴にカギが差し込まれた状態となり効果が生まれる。

薬の構造式が似ていたりすると、お互いが同じ受容体に競って結合しようとする。つまり回じカギ穴にそれぞれのカギを差し込もうとする。

結果、先にカギを差し込みやすい薬の方の効果は現れるが、もうひとつの方はせっかく飲んでも効き目を発揮できないということが起こる。

このような場合には、同じ受容体を競合しない薬剤に切り替える必要がある。そのためにも薬の名前はぜひ覚えていてもらいたい。

また、肝硬変患者にはベンゾジアゼピン系睡眠薬を使用すべきではないという報告がある。肝機能の障害の程度にもよるが、肝硬変の患者の場合、ベンゾジアゼピン系薬剤の代謝が遅れやすく、作用が強く出ることになり、そのため慎重に投与すべき薬剤とされてきた。

最近、ベンゾジアゼピン系薬物が肝性脳症を助長するという報告もあり、肝性脳症を起こしていない肝硬変患者でも動作能力や注意力低下が見られることから、肝硬変患者に対しては基本的に使用しないという方向に向かうものと考えられる。