『第498話』 【消毒剤あれこれ1】逆性せっけんが現在主流
膝(ひざ)小僧を赤くした子供を見かけなくなった。かつては擦りむいた膝の赤チン(マーキュロクロム)が、わんぱく小僧のトレードマークだった。
赤チンは1919年に色素と水銀化合物の研究中に開発されたジブロムフルオレセインの水銀化合物だ。刺激が少なく、持続性の消毒効果が得られる。しかし、殺菌作用はそれほど高くなく、芽胞を殺菌することができないので、破傷風やガス壊疽(えそ)の予防用としては使用できない。
現在あまり使われなくなったのは、水俣病の原因物質が有機水銀であることが分かり、社会的に水銀は悪者とされたからだ。また、金属水銀は非常に揮発しやすく、このヒュームを吸い込むと水銀中毒になる。製造過程では、こうしたことも心配されたため、1973年に国内の全メーカーは製造を中止した。
しかし、赤チンはなめた程度であれば、牛乳を飲ませて様子を見るぐらいでよい。ただし長期間、広範囲に大量に。使うと腎(じん)障害が起こることがあるので注意が必要だ。今でも赤チンを入手することはできるが、すべての製品は中国などから原料を輸入している。現在、主流になった無色透明の消毒液には、逆性せっけんが使われている。これに、かゆみや痛み、炎症を抑え、血管を収縮させて出血を止める成分が配合された消毒剤が一般的だ。
1935年に第4級アンモニウム塩に殺菌効果があることが分かり、塩化ベンザルコニウムと塩化ベンゼトニウムが開発された。両方とも、陽イオン界面活性剤で、陰イオン界面活性剤のせっけんとイオン性が逆なので逆性せっけんと呼ばれる。陽イオンを持っていることが重要で、陰電荷を帯びる細菌に逆性せっけんが集まり、タンパク質を変性させて殺菌効果を発揮している。