『第609話』 【過食】ストレス、欲求不満潜む

「やせる薬ってありますか」「ありますが、そのくらいだとまだまだ使えませんね」しばしば、そんな会話を薬局ですることがある。

相談する人は食生活の改善と運動でなんとかなりそうな人たちばかりだ。やせるための食欲抑制剤はあるにはある。しかし、医師の診断と処方せんが必要だ。それも、肥満度70%以上の人向けで、日本人の肥満程度では使えないことが多い。

体重が変わらないのに、おなかばっかり太ってくるとこぼす人もいる。おなかがパンと張って背中や脇腹の筋肉が緩み、骨のないおなかについた脂肪が重力に従って落ちてきていると説明する。そうするとけげんそうな顔をされるが、本当のことなので仕方がない。

がんばって減量しても3~4キロの体重減少は元に戻りやすい。短期間に5キロ以上落とすと、脳は体が飢餓状態になっていると判断する。すると脳は、このストレスに対抗して抗ストレスホルモンを作動させる。このホルモンが出ると人間の脳からは脳内麻薬のベータ・エンドルフィンが分泌されて、体をストレスから守ろうとする。

こうなると食べなくても空腹感を感じない、眠らなくても平気、活発な活動も可能となり、これが一つの快感となって拒食症に向かうことになる。

この状態を続けていくと、当然ながら胃袋の委縮が起こり、むくみや徐脈が出るようになる。さらに減量すれば脳は萎縮し、まともに考えることができなくなる。減量はゆっくり、2~3カ月かけて平均2キロ落とすぐらいがいい。

食べるのがやめられない人は、ストレスや欲求不満が隠れていることが多い。精神科医によると、食べる行為は攻撃性や不満を代償する方法の一つだという。「ものをかむ、かみつく、飲み込む、消化する」とは「甘える、不満を言う、ねだる、しゃべって相手を攻撃する。優越感を持つ」ことなどができないときの代償方法だそうだ。そのため、食べることでこのストレスを発散させていく。この場合は、単純に食欲抑制剤だけでは解決しない。カウンセリングをはじめ、複合的な治療が必要となる。

各地区で開催される夏祭り。そんな機会をとらえて、家族、仲間同士、飲んで食べて大いに語り合うのは欲求不満解消の良い方法だ。