『第600話』 【ウイルスによる感染症】手洗いやうがいが有効
新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)、小型球形ウイルス(SRSV)、インフルエンザ、C型肝炎など、最近報道されている疾病原因は、ウイルスによるものが多い。
ウイルスと細菌は大きく異なる。ウイルスは最も小さい生命体で、遺伝子とこれを包む殻でできている。
ウイルスの特徴は、生きた細胞の中に入り込まないと増殖できないことだ。動物の細胞にはミクロゾーム、各種酵素、これらにエネルギーを供給するミトコンドリアがあるが、ウイルスにはない。
ミクロゾームは遺伝情報を元にタンパク質を合成する製造工場だ。人体が日々さまざまに利用するタンパク質でできた酵素類を合成している。
ウイルスはDNAまたはRNAのどちらか一方の核酸を持っている。その遺伝子情報をミクロゾームに読み取らせ、ウイルスの核酸複製のための酵素や遺伝子が入る殻をつくる。こうしてウイルスが増殖し、細胞外に放出されていく。中にはヒトの遺伝子にウイルスの遺伝子を組み込んで増殖するウイルスもいる。
ウイルスは、宿主(しゅくしゅ)の特異性を持っていて、天然痘や麻疹(ましん=はしか)のウイルスはヒトだけに感染する。また、向性(組織親和性)があって、エイズウイルスは向リンパ球、インフルエンザウイルスは向肺性といった具合に、特定の臓器に感染する。このようにウイルスの増殖はヒトのシステムを使い、特異的な場所にだけ存在することから、薬を非常に作りにくく、インフルエンザに有効な薬は最近になってやっとできたほどだ。
感染したら対症療法しかない。下痢をしたら点滴で水分の補給、熱が出たら解熱剤、呼吸困難になったら人工呼吸装置となる。
SRSVは食中毒ウイルスと思われがちだが、ふん便の飛まつがトイレの床に散ることで感染経路が広がる。例えば、剣道の選手が裸足でトイレに行って足の裏にウイルスをつけ、体育館の床に座り、その床に触った手で顔の汗をぬぐう。水道の蛇口やドアの取っ手も汚染され、次々に感染者を増やす。体育館であれば足洗いも考慮しなければならない。
インフルエンザの最盛期に、家族の人に移さないためには「手洗いとうがい、マスクの着用ですよ」と話したが、余計なことだとけげんそうな顔をする人もいた。しかし、ウイルスによる疾患を予防するためには、この古典的とも思われがちな予防方法が最も有効である。