『第539話』 【薬のさじ加減】代謝する酵素に個人差

昨年の4月以降、フェナセチンという成分を含んだ医薬品が姿を消した。フェナセチンそのものも解熱鎮痛剤であるが、これに3種の薬物を配合した鎮痛剤は頭痛、歯痛、生理痛によく効いた。この薬のファンもかなり多くいたが、フェナセチン含有製品はすべて供給中止になった。

これらの薬の長期または大量服用による重篤な腎臓(じんぞう)や泌尿器の障害が相次いだためだ。

現在、小児をはじめ、広く使用されている解熱鎮痛剤はアセトアミノフェンという成分だ。空腹時に服用してもあまり問題はないとされ、一般用医薬品としても売られている。

フェナセチンも体の中で代謝されると60~80%近くがアセトアミノフェンになる。ところが、アセトアミノフェンにならなかった残りは、緊張緩和や眠気誘発、多幸、興奮作用をもたらす成分に形を変える。

この代謝にかかわる酵素は人によって数十倍も異なり、このような作用が大きく現れる人たちが、長期・大量連用につながっていくものと考えられる。

酵素の働きによってアルコールに強い人と下戸がいるように、薬にも同様のことが起こる。薬が効き過ぎる人にとっては強い薬を処方されたと思うだろう。逆に効き目が鈍い人ではよい薬を処方してもらえなかったと感じるかもしれない。

薬を代謝する際に働く酵素には個人差があり、人によって薬に対する感受性が異なる。じんましんの薬である抗ヒスタミン剤1錠で倒れるように眠ってしまい、しばらく目覚めない人もいる。睡眠剤以上の効果だ。

将来、個人個人の薬物代謝酵素の遺伝子型が分かるようになり、それが生涯変化しないものとすれば、いよいよその人にあった薬物量の科学的なさじ加減が可能となる。