『第532話』 【お節料理】習わしに長寿への願い

「お節料理」は、自然の恵みに感謝する日本人の姿を象徴している。その起源は、米を作る農業が盛んになった紀元前3~2世紀の弥生文化までさかのぼれるそうだ。

その後、平安時代に中国の年中行事に影響を受けて、宮中行事として神前に食物を供え、邪気払いや不老長寿を祈願する「節会(せちえ)料理」となる。当時は陰暦正月7日(人日)、3月3日(上日)、5月5日(端午)、7月7日(七夕)、9月9日(重陽)の五節句に祝膳(ぜん)を供えた。

お節料理の原形が出来上がったのは、江戸時代後半だ。文化年間(1804~18)に屋代弘賢が全国各地に問い合わせた風俗に関する質問状「諸国風俗問状」でお節料理の内容を尋ねていて、全国的な風習になっていたことがうかがえる。

お節料理と一般的に呼ぶようになったのは戦後で、デパ一トが正月用に売リ出した箱詰め料理にその名を使い、正月三が日は台所仕事をしなくても大丈夫といううたい文句とともに広まったと思われる。

お節料理の中には5色の食材を調える陰陽五行説などの中国医薬の考え方が息づいている。青は東の守護神を表し、野菜類を盛る。白い大根やレンコンは西の守護神を、赤いニンジンやエビは南の守護神、黒豆やコンブの黒は北の守護神を表す。

現代では相撲にそのなごりを見ることができる。黄色の土俵を真ん中にして、それぞれの色に染まった房が取り囲む。お節料理ではくりきんとん、数の子、ダイダイ、卵になる。

5色の食材を用いることは、栄養学的にもバランスのとれた内容にするために重要だ。黒豆はサポニンを含み、民間療法として風邪のせきを和らげるために使った。

シイタケに含まれるフィトステリンは、血中コレステロールの増加と血管への沈着を防ぐ。干しシイタケであれば、ビタミンDを多く含み、小魚で作った田作りはカルシウムとともに骨粗しょう症の予防に役立つ。ニンジンや野菜類は各種ビタミンを含む。

古来からの習わしに、長寿を願い、これを実践する民衆の智慧(ちえ)が生きている。正月は、お節料理を食べて、読者の健康を祈っています。