『第514話』 【乗り物酔い】リラックスし寝るのが一番

秋の行楽シーズンを控えて、乗り物酔いを心配する人が多い。

脳は、目や皮膚、筋肉や関節などにある感覚器から伝えられる情報を総合的に処理している。姿勢制御に関する情報は、筋肉に命令を出して身体の平衡を保つために無意識のうちに高速処理している。

平衡感覚は、主に視覚と内耳にある半規管と前庭から得ている。視覚から得る信号は、眼球から直接脳に到達するので伝達時間が短い。しかし、半規管内ではリンパ液の動きで回転加速度を、前庭にある平衡砂(耳石)の移動で直線加速度(身体の傾き)を関知している。それぞれの物理的な刺激が信号に変えられて脳に伝わるために時間がかかる。視覚と半規管および前庭から得られる情報に矛盾があったり、過去に体験した記憶と実際の動きに隔たりがあって、感覚の混乱が起こると乗り物酔いと呼ばれる加速度病・動揺病になる。

バスの前の席など視野が広くとれる場所では、加速度の変化を予測しやすくなるために酔いにくい。しかし逆に、下を向いて本を読んだり、横を向いて話をするといった行為は、感覚の混乱を起こし、乗り物酔いを招く。従って、リラックスして予測可能な揺れるリズムをつかみやすくしておくことが動揺病を防ぐコツといえる。

あらかじめ動揺病になりやすいことが分かっていれば、乗り物酔い止め薬=鎮暈(ちんうん)薬=を用意する。この場合は、緑内障、心疾患、高血圧、甲状腺(せん)機能亢進(こうしん)症などの疾患がないことを確認しておく。注意したいのは、一緒に行った友人が具合悪くなったときだ。善意であげた薬で、重大な問題が生じることがある。友人の疾患状況が分からないのであれば、乗り物から降りて安静にしていたほうがよい。

乗り物酔いは心配だが、なるべく薬を飲みたくないという人もいる。乗り物酔いの発症は精神的要素があるので、持っているだけで予防効果がある。また、途中で飲んでも効果がある。チュアブル錠やドリンクタイプは水なしでも飲める。

鎮暈薬を飲むと眠たくなる。眠っている間は、緊張から逃れ、感覚の混乱も起こらない。副作用の欄に「眠気」と書いてあるが、寝てしまうのが一番だ。