『第503話』 【「10歳」】情報の信頼性、確認が必要

平成3年6月2日から「百薬一話」の連載を始めて10年が過ぎ、今回で503回目の掲載となった。この間さまざまなお問い合わせを頂き、感じていることを述べてみたい。

現在は医療に関して玉石混交の情報が飛び交っている。インターネットの検索エンジンを使えば、ほとんど分からないことはないという環境にある。10年前は、まだパソコン通信の時代で、薬や疾病に関する情報を探そうとすれば、専門家に直接問い合わせるか、難解な専門書をひもとくしかなかった。

しかし、情報の信頼性、確実性を確かめる状況は、それほど変わりないのではないかと思う。調べた結果を最終的に確認するためには、専門家の意見に頼らざるを得ないからだ。

年に何回か薬の適正使用に関するお話をする機会がある。その冒頭に、自分の膵臓(すいぞう)がどこにあるか手で押さえてみてくださいと聴講者に質問する。お互いに顔を見合わせ、不安な面持ちで、ここでいいかと確認している。ここだと確実に示せる人は少ない。膵臓の機能を説明できる人はさらに少ない。こうした基礎的な知識が与えられていない状況で、消化機能や糖尿病の専門的な話をしているのが現状だ。

実際、人体に関する知識はどこで学ぶのだろうか?義務教育に解剖学、病態生理学、薬理学などはない。ここまで必要としないまでも、健康な生活を営むために最低限必要な知識が社会人となるまでに与えられていないと実感している。これと同時に、世の中がともすると情報を提供さえすればいいという方向に向かっていることに危ぐを抱く。情報は提供された側が理解して初めて情報になるからだ。

「百薬一話」が提供する話題は一般的な情報だ。しかし、読者が本当に必要としているのは、自分自身や家族についての個別の情報ではなかろうか?さまざまな情報から必要な情報を選び分けるには専門的な知識と智慧(ちえ)がいる。かかりつけ薬局にいる薬剤師はこうした相談相手としてきっと力になってくれると確信している。

ぜひ、自分自身の情報を確認し、健康な生活を送っていただきたいと願っています。