『第501話』 【消化器の運動】調整するのは自律神経

胃の運動が低下すると、食べたものが長時間、胃の中にとどまる。すると胃は重くなったり、もたれたり、胸焼けがしたり、おなかが張ったりするなどの症状が現れる。このような症状が長く続く時にはまず、がんでないかどうかを識別する検査が必要だ。

検査の結果、がんでもなく、胃腸に炎症や潰瘍(かいよう)も特に見つからないことがある。それにもかかわらず、このような症状が現れる場合は、消化管運動異常症候群(NUD)が考えられる。原因や発症のメカニズムはまだ分かっていないが、NUDと診断される大半の人が胃腸など消化管の運動が鈍いという傾向がある。

消化管の運動状態を見るのに簡単なものとしては、超音波診断がある。食事後、食べたものがどのように移動するのかを超音波で追う検査だが、約1時間ほどかかる。

詳しく調べるには、人体に害の少ないラジオアイソトープ(放射性同位元素)を混ぜた流動食を食べてもらい、ラジオアイソトープから出る微量の放射線を計測する方法がある。ラジオアイソトープが排せつされるまでの経過をたどると、食べたものが胃や腸のどのあたりで、どのように移動しているかが分かる。運動機能が低下していると、移動時間は当然長くなる。

消化管の運動をつかさどる筋肉は不随意筋と呼ばれ、自分の意思では動かすことができない。従って手や足の筋肉のように胃腸を運動で鍛えるというわけにはいかない。

不随意筋は交感神経と副交感神経からなる自律神経によってうまく調整が図られている。副交感神経の末端から放出されるアセチルコリンという物質が筋肉に伝わると、胃腸が収縮して働きがよくなる。従ってこのアセチルコリンをたくさん放出させる薬がNUDの治療薬となる。ただし、精神的要素が原因となっている場合には、抗うつ薬や精神安定剤が使われる。