『第500話』 【消毒剤あれこれ3】注射液防腐にクレゾール
病院に行くと独特のにおいがする。病院職員がタクシーに乗ると「病院の人ですか」と尋ねられる。クレゾールのにおいはだれしもがどこかで一度はかいでいるはずだ。これを水に溶けやすくしたのがクレゾールせっけん。せっけんの製造過程でクレゾールを半量入れて作る。
クレゾールは国民病と言われた結核菌を消毒するのに優れている。特に、タンパク質が多く含まれていても消毒効果が低下しないので、喀痰(かくたん)の消毒に使われた。こうした理由から昔は多用されたが、ウイルスや芽胞菌には効果がないために使用量は減った。しかし、クレゾールはインスリン注射液の防腐や歯科用に根管充てん剤の成分として有効に使用されている。
また、クレゾールはフェノール(石炭酸)と同様、石炭の乾留液から1854年にウイリアムソンが発見、コッホが1877年に消毒剤として医療用に使った。消毒剤としてはフェノールの方が古く、1834年にランジェが発見し、1866年にリスターが手術用器具の消毒に使っている。
消毒剤の効果を比較する数値に石炭酸係数がある。標準菌(通常はチフス菌)を使って試験を行って求めるもので、そのとき、フェノールを基準として比較している。
もう一つ、古くから使われている消毒剤がホルマリン。吐き気を催す独特のにおいがあり、室内の消毒にも使い、シックハウス症候群の対象成分として問題にもなっている。1867年にホフマンがメタノールを酸化してホルムアルデヒドガスを作った。これを水に溶かしたものがホルマリンだ。消毒力は強く、ウイルス、芽胞菌などを蛋白(たんぱく)凝固させる。その作用は強力なので生体の皮膚などの消毒には使えないが、組織・臓器の保存液として使われる。
ホルマリンには細菌毒素などと結合し、抗原性を変化させないで無毒化する作用がある。これを利用して蛇毒やボツリヌス菌、破傷風菌などの毒素を無毒化してトキソイドワクチンを作り、大型動物を免疫して抗血清(抗毒素)を作っている。