『第666話』 【帯状疱疹】ただれ、痛んだら受診を

旧約聖書ヨブ記。ヨブは全く正しい人であった。「神は与え、神は取られる、神のなさることはすべて良きこと」と、どのような苦難に遭っても罪を犯さず、神に愚痴をこぼさなかった。そのヨブにサタンが目を付ける。自分の命惜しさに神を恐れて従っているだけだと。神は、命だけは奪うなとサタンにヨブを預ける。サタンは足の裏から頭の頂まで、悪性の腫れ物で彼を「打った」。その腫れ物とは何であったか旧約聖書に記述はない。これは、帯状疱疹(たいじょうほうしん)ではなかっただろうか。

帯状疱疹は、まず痛い。その痛みは、わずらった人にしか分からないだろう。今、その痛みを実感しているところだ。発症する20日ほど前、左ほおに触るとピリピリする場所があった。やがて、鼻腔(びくう)内が乾燥し始め、ズーンと目の周辺に痛みが走った。翌日、鼻の上に湿疹(しっしん)ができたが、単なるかぶれだと思っていた。さらに2日がすぎ、口腔内上部の舌触りの違和感と痛みが出てきた。

すぐさま皮膚科を受診すると、主治医に「重症だね」と言われた。顔面左側の鼻腔内から口腔内にかけての顔面神経に発症した帯状疱疹だったからだ。蝸牛(かぎゅう)神経であれば難聴、前庭神経だとめまい、顔面神経が侵されると顔面神経まひが起こり、顔が動かなくなるラムゼイ・ハント症候群になる。

初めてであれば、一般の人は帯状疱疹なのかどうか区別するのは難しいだろう。とにかくただれて痛みがあれば、すぐに受診した方が良い。治療が遅れると痛みが取れない後遺症が残る。

帯状疱疹は、水痘(すいとう)を起こすウイルスと同じヘルペス・ゾスターウイルスで起こる。このほかにも、人に感染するヘルペスウイルスとして8種類が知られている。ほとんどの日本人は水痘をわずらったことがあり、このウイルスを持っている。そして、体力を消耗して免疫力が低下すると体の至る所で、神経に沿って発症してくる。感染症ではあるが、生活習慣病的側面もある。

昔は痛み止めを服用し、体力をつけるしかなかった。今は抗ウイルス薬のアシクロビルや、さらに吸収を高めた塩酸バラシクロビルがある。

人の痛みを理解するには、体験するほかはない。なぜこんな目に遭うのか、神の知恵は人の思いを超越している。信心を貫いたヨブ(ジョブ=仕事の語源)は、その後、完治し140歳まで幸福な人生を送った。