『第5話』 厳重な管理必要、鎮痛剤モルヒネ

がんの末期症状や大手術、重いやけどなどの苦痛を取り除くために使われるモルヒネは、ギリシャ神話の夢の神、モルフェウスにその名の由来がある。

ケシの花が散った後の未熟な果実に傷をつけ、出てくる乳液をかき取って乾燥させたものがアヘンだが、モルヒネはそのアヘンに10%ほど含まれており、純粋に抽出されたのは1905年のことである。

ついでながら、モルヒネにアセチル基を2つ付けた合成品がヘロインで、これは100年ほど前、せき止めとして発売された薬の商品名である。ヘロインは脳の脂質に溶け込みやすいので、少量で効き中毒作用も強い。そのため今では最も厳重な取り締まりの対象になっており、日本やアメリカでは医薬品としての使用が禁じられている。

脳内の神経膜には麻薬と強力に結合する部分(麻薬レセプター)がある。

この麻薬レセプターにモルヒネが結合すると、痛みを脳に伝える物質(神経伝達物質)の放出が抑えられ、そのため脳には痛覚情報が伝わらない。つまり痛みに対する注意力が失われているため、痛感のほか、疲労感、不快感も失われる。それと同時に、幻覚や陶酔感が生じ、再びその薬物が欲しくなる。何度か使用した後、急にやめると肉体的にも耐え難い苦痛が生じるので、もはやその薬なしではいられなくなる。麻薬が恐れられるゆえんである。

しかしモルヒネは、意識や運動機能に影響を与えないわずかな量でも、優れた鎮痛効果を示す。このほか、呼吸困難の緩和、せきを鎮める作用もあるが、一方で嘔吐(おうと)や便秘を起こすなどさまざまな作用を併せ持っているので、厳重な管理が必要な薬である