『第16話』 経験と理論基に処方する漢方薬

人間が薬とつき合って、かれこれ4,000年になる。しかし現在のような医薬品ができたのは、ここ200年たらずのことだ。それ以前は、草や木、根皮、動物の臓器、鉱物などをそのまま生薬として、干したり煎(せん)じたりして使っていた。

民間薬はこうした生薬を、先祖が経験と知恵で受け継いできたものだ。危険な物は自然淘汰(とうた)され、副作用もなく、だれでも簡単に使うことができる。しかし心臓病患者が煎じる量を間違えて心臓まひを起こしたり、迷信と思われる使い方も残っている。

それに対し、漢方薬は「漢方医学的に診察した結果、原典に記載してある権威ある処方を選び、その処方にしたがって調剤し、その病人に与える病気の治療薬」と西山英雄博士は述べている。

漢方医学の診察とは、人間の五感を頼りにして、脈数、腹具合、舌の上の様子などから患者の「証(しょう)」を見極めることだ。証は病名ではなく、漢方では証が決まれば同時にその処方が引き出される。

西洋医学では、他覚症状(病人の表している症状)が同じなら同じ病名がつき、同じ処方がされるが、漢方では同じ病名であっても証が違えば、一人ひとり薬も違ってくる。

従って、似たような症状だからといって漢方薬を勝手に飲んだり、他人に譲ったりすれば、当然副作用も表れる。

民間薬の多くは生薬単品で、漢方はその生薬が数種類組み合わされている。漢方の使い方は経験と理論に基づいている