『第64話』 病原細菌の根絶、現代でも未達成

秋田市で今月、ジフテリアの患者が報告された。

病原細菌の根絶は明治期医学の最も重要なテーマだった。現代では、ほとんどの細菌による病気は抗菌剤や抗生物質によって治療が可能となり、その矛先はウイルスヘと向けられている。

しかし、こうした病原細菌による疾病が完全に撲滅されたわけではなく、時折患者が発生し、医療関係者を慌てさせている。

明治30年、国は伝染病予防法で公衆衛生上の対応を急がなくてはならない伝染病の範囲を定め、現在は法定伝染病11種、指定伝染病2種、届け出伝染病13種を規定している。

ジフテリアは法定伝染病で、かつて数万人が発病した小児の伝染病であったが、現在は毎年1桁(けた)台の届け出しかない極めて珍しい感染症となった。

のどに感染する場合が多く、偽膜と呼ばれる白い膜状のものがへんとう腺(せん)を覆い、呼吸困難を起こし、その毒素は心筋や神経に障害を与える。

治療に大きく道を開いたのは、明治23年の北里柴三郎とE・ベーリングが発表した血清療法だ。馬や牛などの動物が病原細菌に対して本来持っている免疫力を利用し、人間の体内に入ってきた病原細菌の毒素を中和してしまおうとしたところに意義がある。肝炎やエイズの研究など、現代もその精神は受け継がれている。

現在治療の主役になっている抗生物質は、昭和3年にペニシリンが発見されたが、大量生産の糸口がつかめたのは15年とずっと後のことだ。有効な予防対策として行われているワクチンの歴史は血清療法より古く、18世紀にまでさかのぼる。

ジフテリアのほか、百日ぜき、破傷風とともに予防する、安全な沈降DPTワクチンがある。

これは、予防接種法(破傷風は申し出が必要)によって生後3カ月からの定期接種が義務づけられている