『第71話』 神経を和らげる森林が持つ香り

キノコ採りやクリ拾いなど、森を散策する機会が多いシーズンだ。森は涼しく、樹木の姿や新鮮な緑はすがすがしさを与えてくれる。とりわけ私たちを引きつけるのは、森林が持つ独特の香りだ。 

この香りは植物が発する精油で・殺菌作用を持っている。揮発性の香りを出すことで、植物は自分を傷つける虫やバクテリアから身を守っている。ひいてはそれが森の空気の浄化につながっている。 

植物の精油の種類はさまざまだが、総称してフィトンチッド(フィトン=植物、チッド=殺すの意)と呼ばれる。クスノキ特有の香りはカンファーという物質だが、サルビアなどにもあり、ほかの植物の生育を阻止する。逆にクリの木は、細菌や昆虫を防御しながら自分自身の成長を促すウーンドガスという物質を出す。秋に鮮やかな赤い実をつけるナナカマドは、強力なフィトンチッドである青酸を分泌する。 

森林を散歩しながら森の中の空気を浴びると、精神系の活動が活発になることは実験でも認められている。つまり、頭がリフレッシュされる。しかもゆったりとした呼吸法で森の中で休息できれば、疲れた神経も和らぐ。 

樹木の種類の差もあるかもしれないが、ドイツでは古くから森林療法が確立されている。日本にも古代から森についての不思議な伝承は多く、不死不老の仙人が森の奥に住む話は、森の中で生活するものが長生きであったことの証明かもしれない。