『第75話』 MRSAの出現、院内感染で対策

抗生物質が効かなくなった菌を、抗生物質耐性菌という。代表的なのがMRSA(メチシリン・レジスタント・ストレプトコッカス・アウレウス)だ。

SAは黄色ブドウ球菌のことで、動物の皮膚表面や鼻喉粘膜に常在し、種々の化のう性疾患を引き起こす菌として知られている。1928年発見されたペニシリンは当初、このSAに対して劇的な効果を現した。しかし間もなく、ペニシリンを分解してしまう酵素ペニシリナーゼを作るSAが出現する。

59年この酵素に分解されない合成ペニシリン、メシチリンが開発されたが、61年にはすでに耐性を示す菌が報告されている。

その後、欧米ではメチシリンが多用され、60年から70年にかけてMRSAが院内で免疫機能の低下した患者に感染していくという、いわゆる院内感染が問題となっていた。

このころ、日本ではペニシリナーゼに分解されず、SAに対して強力な抗菌力を示し、大腸菌などにも効く第一世代セフェム剤が開発される。このためSAが少なくなり、MRSAも報告されていなかった。

しかし、よりさまざまな菌に対して効果のある抗生物質の開発は続き、第二世代、第三世代セフェム剤へと進むが、80年代から多く用いられたこれらの抗生物質は、第一世代よりもSAに対する抗菌力がやや劣る面があり、多くの抗生物質に耐性を得ていたSAがまん延していったものと考えられている。

欧米ではセフェム系薬剤が多用されず、早くからMRSAに効果のあるバンコマイシンが使用され、院内感染対策が進み、現在では日本ほどまん延していない。

日本でもすでに各病院で院内感染対策委員会が設置され、対応が取られているが、それとともに適正な抗生物質の使用が望まれている