『第80話』 腰痛や神経痛に医療用の懐炉も

温石(おんじゃく)といって分かるなら、相当年配の方だ。つるりとした小石をたき火で暖め、布で巻いて懐に入れて暖をとった懐炉のことだ。

昭和初期までは炭の粉を棒状に成型し、火を付けて使う懐炉が主流だった。その後、白金を触媒にした懐炉が登場する。この仕組みは普通の温度では燃えないはずの気化したベンジンを、白金を使って酸化する時に発生する熱を利用している。酸化というのは燃えるという意味だと考えてもらっていい。アルコールを飲んで体温が上がるのも、体の中でアルコールが酸化されているためだ。

近年はやりの使い捨て懐炉も原理は同じだ。鉄の粉が空気中の酸素と結合するときに発生する熱を利用し、適当に食塩や活性炭、水などを入れ、ゆっくりと酸化して低温やけどを起こしにくいようにしている。

使い捨て懐炉が若い女性に喜ばれるのは、体にフィットし、目立たないというところにあるようだ。使っているうちにすれて困るという人のために、下着に張りつけるものもある。

さらに最近では、より温度を一定にし、正式に医療用具の認可を受けた懐炉が登場している。これは腰痛、神経痛の諸症状の緩和や、胃腸の働きを活発にし、血行を促進する温熱療法に用いるものだ。

また、薄型で低温やけどを起こさない40度程度の温度が5時間以上持続し、1日1~2回、1回6時間を限度とし、肌に直接張って使えるものもある。こうした医療用具は薬局や薬店では常時購入できる