『第83話』 心理面でも作用、薬の効き目に差

薬の効き目には、さまざまな背景がある。薬のCMに好きなタレントが出ていたりすること、値段や評判なども心理効果として働く。体に及ぼす本来の薬理作用のほか心理面での作用もあるため、効き目に個人差が出ることもある。

頭痛、不眠、腹痛などさまざまな症状を訴える患者の体を調べてみても、特に異常がなく、臨床検査値も正常である場合がある。このような患者に、乳糖、でんぷんといった薬理作用のない物質を投与することがある。こうした薬を専門用語でプラシーボ(偽薬)という。信頼する医師の丁寧な診察の結果、薬が投与されるとプラシーボでありながら薬同様の効果をもたらす。

半面、思春期の登校拒否やストレスによる出社拒否、自分を病気にしておきたい人や薬の副作用だけを気にする人、他人の言うことを信じない我の強い人などにプラシーボを与えると、かえって症状が悪化することもある。薬がもつ心理効果の難しさがそこにある。

病歴が長く薬に関する知識が豊富になった患者は、経験から薬を選別するようになる。以前プラシーボが自分によく効いたことがあれば、それを指名してくることもあり、まさに「病は気から」を逆手にとった薬としての効果をもつ。

日本人は薬が好きな国民だといわれている。実際、ドリンク剤のブームを見ても、薬が何か体にいいものという印象がある。薬を飲んでいるから安心、というような人にはプラスのプラシーボ効果が期待できる