『第84話』 敬遠されがちな「希用薬」の研究

国は原因も治療法も分からない34疾患を特定疾患治療研究対象に指定している。難病といわれている疾患はこれだけではなく、これらを含め約150の疾患について研究が進められている。

こうした難病や患者数がごく少ない疾患に用いる薬を専門用語でオーファン・ドラッグ(孤児の薬)、日本語では希用薬という。1968年米国の専門誌に登場した言葉だ。差別的な意味合いではなく、特別な努力をして育てあげるべき薬という意味。

医薬品を新しく開発するには、15年の歳月と100億とも200億円ともいわれる研究開発費が必要だ。手にした化学物質がどんな疾患に効果があるのか、有効成分の化学的構造を調べどの部分に効果があるのかを探る。効果のある化学構造を基本にしてさまざまな化学物質が合成される。最近では遺伝子組み換え技術も応用されている。

効果があるからといってすぐに薬として用いられるわけではない。まず動物を使って有効性と安全性が試験され、化学物質の代謝経路が険討される。次が臨床試験だ。実際に人に投与し、4段階に分けて試験され、10,000例以上の臨床データが集められる。そして、約10,000件の化学物質から1つの新しい薬が誕生する。製薬会社にとって、希用薬開発はリスクが大きく、敬遠されがちなのもこのためだ。米国では83年にオーファン・ドラッグ法が制定されている。日本でも企業に対し研究費の補助、税制面での優遇措置、一定期間の独占的販売権、医薬品承認審査期間の短縮を定めた希少疾病用医薬品の研究・開発促進に関する法律(仮称)が検討されている。

ぜひとも今年は法律が整備され、難病対策が進むことを期待したい