『第90話』 肥満の補助療法、食欲抑制承認

「食べても太らない薬はありませんか」という問い合わせが時々ある。毎日肥満を気にしながら食卓に向かっている人も多いのではなかろうか。

アメリカでは以前から食欲を減退させる薬が市販されている。だが、注意書きが多く、副作用が出れば直ちに中止しなければならない。そんな薬でも販売が許可されるほど、かの国の肥満問題は深刻だ。

その心配はわが国にも及ぶようになり、咋年9月に初の食欲抑制剤マジンドールが承認された。また、炭水化物を吸収しにくくする薬なども試験的に使われており「食べても太らない薬」と浮足立つ方がいることと思う。

しかし、これらはあくまでも治療が目的で、日本で使用できるのはごく限られた人たちだ。高度肥満患者(BMIが35以上)で食事療法と運動療法の効果が不十分な場合の補助療法として使用される。

BM1(ボディー・マス・インデックス)は最近、肥満の指標としてよく使われる。体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った数値が20~22であれば標準、26以上が肥満とされている。35だと、だいたい身長170センチ、体重100キロぐらいの人だ。

食欲をコントロールしているのは脳の視床下部にある食欲調節中枢だ。この薬はその神経に直接働いて、空腹感を抑える。同時に消化吸収の能力も低下し、取り込まれるエネルギーも低くなる。

非常にまれなプラダー・ウイリー症候群の治療にも効果がある。この病気は筋緊張低下や知能障害を伴い、2、3歳ころになると多食が始まり、多食性肥満が進んで命を縮める。

食欲抑制剤は副作用の問題があるが、患者が治療に対して前向きになるという点では効果が期待される