『第93話』 副作用を抑制し主作用のみ発揮

これからの薬は、副作用が抑えられ主作用だけが効率よく発揮される製剤が主流になるだろう。基本は、体内で薬物を必要とする細胞にだけ薬を作用させ、それ以外の細胞には薬が分布しないようにすることだ。

実際例として、脂肪の微粒子に動脈硬化に効果のあるプロスタグランジンE1を入れた製剤がある。脂肪微粒子が動脈硬化の起きている血管や炎症部分に集まりやすい性質を利用したもので、血栓の予防や動脈硬化による脳梗塞(こうそく)の治療に効果を上げている。

また、薬の効率を高める工夫の一つとして、薬効成分が放出されるスピードの調節がある。製剤から必要量だけが徐々に放出されれば、長期間薬効が持続する。薬が一気に吸収されないので副作用も減らせる。これを応用したのが、避妊効果の高いホルモン剤を包み込み、子宮の中に入れて使う製剤だ。すでにアメリカで実用化されている。

狭心症治療で胸に張る製剤も、この一種といえる。皮膚から吸収される薬は肝臓を通ることなく血中に入るので、肝臓で代謝されると効力がなくなる薬には都合がいい。たとえ副作用が出ても、はがせばいいわけだ。

ちょっと面白いところでは、宇宙飛行士が酔い止めに使う張り薬がある。強力な酔い止め作用があるスコポラミンをしみ込ませたもので、耳の後ろに張っておくと少しずつ薬がしみ出し効果が持続する。水の飲みにくい状況や、副作用の強いスコポラミンにはまさにうってつけの製剤といえる