『第116話』 慢性中毒で幻覚、コカインは魔薬

コカイン-出版、メディア界の風雲児逮捕で社会に衝撃を与えた麻薬である。 

カインを約1%含有するコカの葉はコカノキ科に属する常緑の小低木の葉で、南アメリカのアンデス地方が原産地といわれている。 

央アンデスにかつて栄えたインカ帝国では、このコカの葉が宗教的儀式に欠かせない霊薬であった。また、インディオたちはアルカリ性にして服用すると作用が強くなることを経験的に知っていて、コカの葉を灰と一緒にかみ、空腹や疲れをいやすし好品として用いていた。 

がて、前世紀末ヨーロッパの上流階級で流行する。ロバート・ルイス・スチーブンソンはコカインを服用して「ジキル博士とハイド氏」を三日三晩で書き上げたといわれている。このほかにもシャーロック・ホームズの作者コナン・ドイル、心理学者のフロイトらが用いている。 

かし、これはコカインの持つ毒性についての研究が進んでいなかった時代の話だ。やがて彼らもコカイン中毒に悩まされている。 

り返ると恐ろしいことだか、同時期にはコカの葉を浸したアンジェロ・マリアーニのコカワインが強壮剤としてヨーロッパ中でもてはやされ、ジュール・ヴェルヌやH・G・ウェルズといった作家や名士たちが愛飲している。1898年にはローマ法皇レオ13世が人類に恩恵をもたらしたとして、マリアーニを顕彰している。 

カインは緊張している時に働く交感神経をさらに興奮させて、覚せい剤と同じように陶酔感と幻想を引き起こす。しかし、薬が切れるといいしれない抑うつと無力状態が襲ってくる。 

のため、抑うつ状態から逃れようとする精神的な依存性がある。また覚せい剤と同じように、慢性中毒による幻覚妄想後遺症があり、皮膚の下を虫がはい回るといった体感幻覚症に悩まされることになる。 

紀末の麻薬といわれるコカインは、われわれの現実社会にジキル博士とハイド氏をつくり出してしまう危険な魔薬である