『第119話』 風邪のひき始め、漢方で発汗促す

全身的な汗は体温調節をつかさどり、手のひらや足底からは精神的な刺激によって汗が出る。

漢方医学では、汗を体力や体質、病状の現れ方や程度といった全身的な体の状態を見極めるための一要素としている。汗は体内の正常な水液が変化したもので、人体の一番表面を守る働きがあるものと考え「発汗」を重要視している。

汗は皮膚に潤いを与えるが、出過ぎると体内の陽気(人体を動かすエネルギー)が不足してしまう。

風邪のひき始めでは発熱悪寒があり、鳥肌は立つが汗は出ないといった場合がある。これは風邪という「邪」の攻撃を受け、体の表面が閉じてこれ以上「邪」の侵入を拒んでいるためと考えられている。表面に「邪」があると頭痛、筋肉痛、肩こり、腰痛といった、表面に近い部分に症状が現れる。

この無汗のときに発汗剤を飲み暖かくしていると、体内の陽気が表面に集まってきて「邪」を汗といっしょに追い出す。このとき、発汗剤として使われるのが葛根湯(かっこんとう)だ。

風邪には葛根湯という人が多いが、このように汗が出ていない「無汗」のときに用いることが絶対条件だ。

また、風邪の症状がまだ軽いとき、体質虚弱な人は表面の閉じる力が弱いため汗ばんでいることがある。このようなときは穏やかな発汗剤を使い、体内の陽気がかえって外に出過ぎないようにする。このような発汗剤としては桂枝湯(けいしとう)が使われる。くしゃみ、鼻水、寒けなどいろいろな症状があるが、特にひどい症状ではない人や胃腸の弱い人はこちらを使用する。

このほか、風邪といってもその症状によって香蘇散(こうそさん)、柴胡(さいこ)桂枝湯などさまざまに使い分ける。

夜の冷え込みが厳しくなる時期、体を温めて疲れをいやし、十分な栄養を取って風邪を予防することが賢明だ