『第128話』 放射線被爆の心配なくなる

「百聞は一見にしかず」を実感として味わわされたのが1972年、CTスキャナー(コンピューター断層撮影法)によって撮影された頭部断層撮影画像だ。イギリス人ゴットフリー・ハウンズフィールドによって開発されたCTスキャナーは、X線とコンピューターを組み合わせ、体がX線を吸収する割合を計算して画像にする方法で、体をちょうど輪切り状態にして見ることができる。脳の検査を目的に開発され、脳出血や脳腫瘍(しゅよう)の診断に威力を発揮し、胸部や腹部の診断にも応用されている。

CTスキャナーは、ある一方向からだけの輪切り画像だったが、さらにどの角度からの画像も可能にし、必要ならば、輪切りにしたものを積み重ね立体的な画像としてリアルに映像化できる方法が開発されている。それが、MRI(核磁気共鳴断層画像)だ。

大人の体の約60%は水で、骨には少ないが、体のどの部分にも含まれている。水は酸素一原子と水素二原子から成り立っているが、この水素原子(人の体)に強力な磁場をかけ、急にこの磁場を切ると水素原子が特定.の周波数の電波を出す。このことを核磁気共鳴というが、この電波を受信してコンピューターで解析し、画像化するのがMRIだ。特に水が多く含まれる目などの器官は解剖図を見ているようだ。

MRIがCTスキャナーと大きく違うのは骨に対する影響度だ。X線は骨に吸収されやすいため、骨のそばにある組織が分かりにくかった。逆にMRIでは水分含有量の少ない骨は写らない。しかし、これが幸いし、骨の近くにある軟組織や骨に囲まれた脊髄(せきずい)や脳の下部の様子などが判別しやすくなった。さらに放射線被膜(ひばく)の心配もいらない。

MRIは非常に高価だが応用範囲が広く、水素以外の原子をとらえて画像化し、臓器機能の変化までも明らかにしようとする試みも始まっている