『第137話』 脳細胞防御する「血液脳関門」

体内に入った薬は血液やリンパ液に乗って体内を循環する。やがて目標とする細胞(標的細胞)に到達すると、毛細血管を透過して細胞に薬が渡される。血管はすき間だらけの壁のようなもので、さまざまな物質の通過が可能だ。

しかし、脳の毛細血管は他の毛細血管とは異なり、容易に薬を透過させない性質がある。これによって薬だけでなく、化学物質や細菌、ウイルスなども簡単には脳に到達できないことになり、一種の脳の防御機構になっている。これは「血液-脳関門」と呼ばれ、脳細胞まで通過させるものを選別する“関所”のようなものだ。

従って、この“関所”を通り抜けることができない薬は、この関門を通過し、通過後に薬効を発揮する構造式になるようデザインされていなくてはならない。

例えば、脳内には脳の活動になくてはならないアドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミンといった神経伝達物質か大量にあるか、末梢から体内に投与しても、いずれもこの関門を通過できない。ところが、これらの構造式をほんの少し変えた物質はいとも簡単に通過してしまう。それが覚せい剤やヘロインなどだ。

パーキンソン病は手足の小刻みな震えや、筋肉がこわばって動作がぎこちなくなるなどの症状が出る神経系統の病気である。これは脳内のドパミンが減少して起こるが、ドパミンそのものは「血液-脳関門」を通過できないので、通過後、ドパミンに変わるL-ドーパという物質が薬として使われている