『第139話』 生体のリズムに基づき薬を投与

薬は1日3回飲むことが多い。しかし、最近の新薬は1日2回、または1回の服用で済むものが増えてきたため、従来の飲み方に慣れてしまった患者さんが誤って服用回数を増やしてしまい、しばしば薬の数量が合わないと訴えてくることがある。

1日1、2回の服用で済む薬は3回服用するものと比べ、長時間にわたって有効な血中濃度を保つよう特別な工夫がしてある。薬が溶ける速度をコントロールしているので服用回数を増やしたり、勝手に砕いたり、半分にしたりして飲んではいけない。

服用回数だけではなく、薬を効率的に使うための服用時間も研究されている。例えば、気管支ぜんそくの発作やアトピーによるかゆみは夜間に頻発する。気管支ぜんそくは何らかのアレルゲン(抗原)の刺激によって遊離したヒスタミンが気管支を収縮させ、肺から空気を吐き出すことが困難となって激しくせき込む。

昼は交感神経系の支配を受けて気管支が拡張しやすく、夜は逆に副交感神経系の支配を受けて気管支が収縮しやすくなって発作が起きやすい。ダニや花粉、室内のほこりなどの抗原に対する感受性も午前中は弱く、夕方から深夜にかけて強い。従って抗ヒスタミン剤は昼は少なく、夜多く服用するのがよいことになる。

また、局所麻酔による鎮痛効果は夜間よりも昼間、特に午後が強いという報告がある。このようなことから、局所麻酔剤使用の手術の時間が選択できる。

生物は体内時計を持っていて、昼と夜が交代するという24時間の変化に対応している。睡眠や覚せいだけではなく、体温、血圧、ホルモン分泌、病気に対する抵抗力、薬物に対する感受性にも一定のリズムがある。こうした生体のリズムに基づいて薬が投与されるケースもある