『第145話』 角質層の軟化にサリチル酸軟膏

医学専門用語は非常に分かりにくい。鶏眼(けいがん)、胼胝腫(べんちしゅ)と言われても何のことか分からないが、魚の目とたことくれば分かるはずだ。畳職人のひじに見られる畳だこや作家のペンだこは職人の勲章でもある。

皮膚は全身で畳一畳分(約1.6平方メートル)の広さがある臓器で、外からの乾燥や刺激か体を守っている。さらに力が一番加わる部分はより厚く、体を保護している。皮膚が一番厚いのは、足の裏と手のひらだ。ちなみに一番薄いのはまぶたである。皮膚は上から順に表皮、真皮、皮下組織に分けられ、約1カ月のサイクルで新しい細胞と入れ替わる。

習慣的な刺激、例えば摩擦や圧迫といった刺激が繰り返し皮膚に加わると、生体の防御機構が働き、表皮の角質層が厚くなる。これが外に向かって厚くなるとたこになる。これは圧迫してもさほど痛みを感じない。魚の目は圧力が常に加わっているのに外に向けて皮膚が厚くなれないときにできる。内側に向かって厚くなり、中心に円すい形の芯(しん)ができた状態だ。これが足の裏にあれば、この芯が歩く度に痛覚を刺激して歩行が困難になるほど痛む。

治療には主にサリチル酸が使われ、軟膏(なんこう)剤やばんそうこうタイプの製剤がある。サリチル酸の腐蝕作用を利用して角質層を軟化させ、ナイフで削り取る。これを数回繰り返す必要があるが、魚の目では芯の部分が完全に取りきれないと再発する。たこは自己防衛的に厚くなった皮膚なので、削りすぎるとかえって痛くなることもある。サリチル酸は皮膚から吸収されるので妊婦や授乳中は使うことができない。また、糖尿病や末しょう血管障害、患部に炎症や感染がある場合は注意が必要だ。魚の目、たこを防ぐには予防に努めることが最も重要で、圧迫を防ぐパットを上手に使う。魚の目、たこと思っていても、ウイルス性のイボであることもある。この場合は別の治療が必要だ。痛みや生活に支障があれば自己判断ぜず、皮膚科に受診してもらいたい