『第146話』 視野に小さな点、目にも老化の影(飛蚊症)

百薬一話の原稿は深夜パソコンに向かって書いている。3カ月前、画面に黒い点が現れてきた。日中は気がつかなかったがパソコンの白い画面には小さな黒いぼんやりとした点が見える。パソコンの文字を追うと、その黒い点が一緒に動いて気になる。早速眼科を受診したところ、診断結果は飛蚊(ひぶん)症だった。蚊が飛んでいるように見えるのでこの名があるが、見え方はいろいろで、糸くずが浮遊したように見える場合もある。

目の水晶体と網膜の間にある硝子(しょうし)体はドロッとした寒天状の透明な組織で、眼球の4分の3を占める。硝子体の役目は外から力が加わっても眼球の形を保ち、網膜に栄養を与えることだ。

幼児期には寒天状の構造が均一で、これを構成する硝子体線維を確認することはできないが、十代後半には硝子体線維が固まってきてこれを外から確認できるようになる。さらに年をとると硝子体が部分的に液化してくる。これを取り囲むように硝子体線維が集まり、これが網膜の近くにあると、硝子本線維の影を飛蚊症として自覚する。

加齢とともに硝子体の変化がさらに進むと、網膜とついていた硝子体がはがれてくる。このことを後部硝子体剥離(はくり)というが、はがれた硝子体と網膜の間に組織が浮遊すると、やはり飛蚊症の症状が表れる。実際にはこれが飛蚊症の主な原因であることが多い。50~60代を頂点に、この年代の半数が後部硝子体剥離を起こしているといわれ、特に強度の近視がある人は10年早く起こる。これらは硝子体の正常な老化で、治療には有機ヨウ素製剤を使って目の代謝を促進させるが、それほど効果はない。

飛蚊症の約95%は病的なものではないが、失明に至る網膜剥離や硝子体出血の前駆症状として飛蚊症の症状が出ることがあるので、眼科に受診することが必要だ