『第148話』 木や草の香りで免疫機能回復も
記念式典や開会式、開店祝いなどでは、よくくす玉が割られる。中には紙吹雪や垂れ幕などが入っているが、くす玉は「薬玉」と書き、もともとは麝香(じゃこう)、沈香などの薬を錦(にしき)の袋に入れ、これを玉にしたものだった。くす玉は中国から伝わった風習で、5月5日の端午の節句に邪気払いをするために作られた。薬の入った玉は身に着けたり、家の中につるしたりして無病息災を祈った。
現在では調味料や香水の材料になっているものも、昔は薬として使った。現存するわが国最古の医学書である「医心方」には、芳気法すなわち体を芳しくする方法というのが記載されている。丁子(クローブ)、零陵香(バジル)、青木香(コスタス)、桂心(シナモン)、麝香などを混ぜ、よく擦りつぶして蜜を加えて丸薬とした「体身香」を作る。これを3日間連続して服用すると口中が芳しくなり、5日目で体から香気を発する。20日目には擦れ違う人も気が付くほどよい香りがするといわれ、さらに顔を洗った水までが香気を漂わせるという。これがあらゆる病気を治す妙薬と考えられていた。
現代人がこの処方通りに丸薬を作ってみたところ、続けて飲めるものではなかったという。体臭に変化が起きそうだと予感させるほど特殊なにおいであることは確からしい。
インドでは、傷ついた蛇が白檀(びゃくだん)の木に巻き付いて傷を治す話が古い書物に残されている。
古来、香りのある木や草、樹脂などが宗教的儀式に使用される例は世界的にも多く、香りは神に通じる力を持っていた。
今では、いくつかの香りがストレスによって低下した免疫機能を回復させることが科学的に証明されている