『第153話』 劇症溶連菌感染症、日本も実態調査

英国で相次いで死者が報告された劇症溶連菌感染症の感染拡大が心配されている。法定伝染病に指定された猩紅熱(しょうこうねつ)の原因菌も溶連菌(溶血連鎖球菌)で、このほかにも丹毒や敗血を起こす。こうした溶連菌によって起こる一連の感染症を溶連菌感染症という。溶連菌はA群からS群(IとJを除く)までの17群に分けられる。人に病気を起こすのは主にA群で、特にペニシリン系の抗生物質がよく効き、抗生物質が効きにくい耐性菌の出現もほとんどないことから、あまり問題とならなかった。しかし、80年代の半ばから欧米では壊死(えし)性筋膜炎や筋炎などの軟部組織の炎症を伴い、急速に悪化する致死率の高い溶連菌感染症が報告されていた。92年には日本でも初めてその症例が報告された。

これに感染すると細胞が死んでしまう壊死を起こすため、報道では人食いバクテリアと表現されているが、実際に食べられてしまうわけではない。筋肉は筋膜という膜で包まれていて、感染を受けるとこの部分で増殖する高熱と激しい痛みを伴い、1時間に約2.5センチの速さで広がる。同時に毛細血管をふさぐため組織に供給されていた酸素や栄養が断ち切られ、患部の拡大とともに周辺の組織も含めて壊死するが、毒素によるショック主体型の死亡例もある。

抗生物質は血管がふさがれると患部に運ばれなくなるので効果がなく、四肢の切断といった外科的処置が唯一の治療法だ。

主に見つかるのはA群溶連菌のうち血清型でM1,M3型というあまり感染経験のない菌種で、免疫がないことと菌が作るA型発赤毒素の関与が原因ではないかと疑われているが、解明はこれからだ。

アメリカ防疫センターの私的ワーキンググループが提唱した診断基準案では軟部組織壊死のほか、血圧の低下や腎(じん)不全など9項目が挙げられている。日本でも今年2月に研究班を作り、実態調査と診断基準の確立を急いでいる。

発生率は交通事故よりもはるかに低く、一般の人は傷を受けたときしっかり消毒すれば心配する必要はない