『第154話』 若さの秘訣は良好な精神状態

65歳以上の人が1年間に費やす医療費は40代の人の数倍だ。加齢とともに体の不調を経験することが多くなり、健康であった時と比較してさまざまな症状を訴えるようになる。

症状の中には病気というよりも老化を示す身体状態そのものであることも多く、治療や薬で、元の状態に戻すには限界がある。

老化のカギは遺伝子が握っている。遺伝子が全く同じ一卵性双生児は寿命がほとんど同じことから、老化の遺伝情報は最初から生命体に組み込まれているという説や、遺伝情報を持つDNAも長い間には間違った情報を持つようになり、細胞の機能や代謝のメカニズムを狂わせたりするという説がある。

衰えはまず脳から始まる。10歳を過ぎるころから10年ごとに脳の神経細胞が10%ずつ死んでいくため、高齢者では脳の中で情報がやりとりされるスピードが遅くなる。物忘れがひどくなったり、思考力が低下するのはこのためだ。

しかし、脳にはあり余る神経回路や細胞があるのも事実で、刺激を受けると細胞間に新しい回路を作り始める。昔から年をとっても頭を使えといったが、まさにこの刺激を与えるために必要なことだ。

ストレスを感じると、体の抵抗力を強めるための副腎(ふくじん)皮質ホルモンが多く生産される。その間、卵巣や睾丸(こうがん)を刺激するホルモンや成長ホルモン、髪の黒色色素生産ホルモンの生産は減る。そして脳の記憶や学習に関係する「海馬(かいば)」という部分に副腎皮質ホルモンの一種が流れ込み、その量が多くなると海馬の老化を早める。年をとったら丸くなれというが、良好な精神状態を保つことが若さの秘けつかもしれない。